各種ルールの予備知識
各種ルールを読む前に知っておきたい二、三の事柄


囲碁憲法草案
(安永草案)
1932(昭和7)年に安永一が作成した草案で、俗に「安永憲法」と呼ばれる。1928年に日本棋院大手合で瀬越憲作(当時七段)と高橋重行(当時三段)の2子局で万年劫問題が発生し、その事件を受けて安永は翌29年、「棋道」でルール成文化の問題を論じた。それをまとめたのがこの草案である。
原始棋法
(島田ルール)
いわゆる「京都学派」の一人であり、「囲碁の数理」の著者・島田拓爾氏が提案したルール。島田は戦前、安永一と同じく万年劫問題に端を発し、ルール成文化を叫んだ。そのときに提案したのが「完全棋法」。すなわち、囲碁の発生を古代中国にまでさかのぼり、そのルールを原始的な形態から再考して完全なルール(完全棋法)を作るべきだと主張した。後にこれを原始棋法と称するようになった。
日本棋院囲碁規約
(旧規約)
旧規約は1949(昭和24)年10月2日に制定されたもので、碁界で初めて正式に成文化されたルール。それまで安永草案や島田ルール、貝瀬ルールなど、試案レベルではいくつか提案されていたが、いずれも正式採用されなかった。旧規約は、従来の日本的な囲碁の慣習をなるべく変更することなく成文化したもので、ルールとしては不完全・不合理なものであった。また、ゲーム・ルール以外に、競技運営規定や囲碁作法、判例など多様な要素が盛り込まれているため大変な長文となっている。
囲碁規約改正案
(旧規約の改正案)
旧日本棋院囲碁規約の改正案で、囲碁規約改正委員会が「棋道」1963(昭和38)年9月号〜12月号に発表したものを、さらに修正したもの。日本棋院理事会ならびに審査会に対して最終的に提出された。この改正案は、旧規約にあった個別の判例を廃止し、また条文もシンプルかつ簡潔にまとめるなど、旧規約の無駄な部分や不合理な部分を排除した案となっている。だが、正式に採用されることなく、あくまでも“案”に終わった。結局、旧規約が現行の日本囲碁規約として大改正されるまで、じつに40年もの歳月を要すこととなった。
日本囲碁基本規則案
(貝瀬ルール)
安永一や島田拓爾と同じく囲碁規約改正委員会の委員である貝瀬尊明が提案・発表したルール。貝瀬は日本ルールの形式に中国ルールの考え方を取り込み、「碁は最終着手権の行使を争うものである」と規定した。すなわち、着手禁止点を除いて、対局者が互いに打つところがなくなるまで打つのが「本来の終局」(後手の手止まりで終局)である。そして、最後にもうそれ以上打てなくなった者が、まだ打てる点を所有している者に対して、その差分だけ負けになる、というもの。これにより、従来のルールとまったく同じ計算結果が得られる。
貝瀬漸進案 この漸進案は、日本囲碁基本規則案を一歩押し進めたルールで、囲碁規約改正委員会に提出された。前項で述べたように、当初の貝瀬ルールは「後手の手止まりで終局する」というもので、従来の碁法や習慣と大きく異なるために受け入れがたいものだった。そのあたりの抵抗感を弱め、従来のルールに歩み寄りを見せたのが、この漸進案である。
日本囲碁規約
(現行ルール)
1989(平成元)年4月10日制定。数々の問題点が指摘されていた旧規約を40年ぶりに大改正したもの。従来の日本の碁法にかぎりなく準じながら、不合理なケースを合理的に解決できるようにしたもので、これによりトラブルのほとんどに対処できるようになった。その意味では画期的なルールだが、そもそも日本ルール自体が「囲碁の技芸に秀でた者向き」に作られたルールであるため、コウがらみの特殊事例に対して素人が厳格にルールに則って解決しようとするには、いまだに何かと難しい面があるのは否定できない。
純碁ルール
(王銘碗提案)
王銘碗九段(現本因坊)が「週刊碁」(1999年6月28日号〜同年9月13日号)に連載発表したもの。あくまでも初心者向けで、しかも7〜9路盤程度の小路盤使用を前提としたルール。その考え方は原始棋法とほとんど同じ。囲碁の最も原初的なルールであり、初心者にとっては最も終局しやすく、理解しやすいルールといえる。(リンク先は「碁に夢中!」のコンテンツ)
純碁ホームページはこちら
池田敏雄試案 池田敏雄氏は富士通の元専務で、コンピュータに初めて囲碁を打たせた人だという。氏は「囲碁新潮」の1968年11月号から69年9月号まで11回にわたって連載した「囲碁ルールについて」の中で、日本ルール(旧囲碁規約)と各種ルールの比較を行い、それぞれの問題点や矛盾点を考察。その後半部で新ルール試案を提案している。なお、「囲碁ルールについて」の連載自体は残念ながら未完で終わっている。
10 ネット棋院囲碁ルール
(PDF/酒井猛作成)
現行の日本囲碁規約をネット対局用に修正・改訂したルール。日本囲碁規約の文章だけでは充分に説明しきれない部分を補足するかたちで作成されているため、このルールを読んでおくと、現行の日本ルールに対する知識が深まってよい。1996年に酒井猛九段が作成したWWGoルールを、2002年にネット棋院囲碁ルールとして改訂したもの。(リンク先はネット棋院のPDF)
11 囲碁ルール考
(塚本惠一提案)
塚本惠一氏は棋界でも有名な詰碁作家(代表作「算月」)。本案は、現行ルールである日本囲碁規約に散見される問題点や違和感を鋭く指摘。独自の考察をまじえながら、慣習的な日本式囲碁を無理なく取り込むべく、新たにルールを作成・提案したもの。2003年8月23日〜27日にわたって本サイトの掲示板に掲載された。
12 日本囲碁規約
修正案
(鄭銘コウ試案)
日本棋院の鄭銘コウ九段が提案する現行ルール(日本囲碁規約)の修正案。本案は、囲碁審判員(立会人)等が死活と地の判定をする際に、もっとも素早く判定できることを大きな目的として作成された。その甲斐あってか、現行の日本囲碁規約に比べ、かなりわかりやすいルールとなっている。特筆すべき点は、第六条(石の生存)、第七条(死活)、第八条(地) に関する条文。死活の判定方法に「純碁」的な考え方を導入し、想定着手によって「最終的にどちらの石や目になるか」を検証することで、活き石、死石、セキ石の判断ができるように工夫されている。ネット棋院の掲示板や棋士間での意見交換を経て、2011年8月、本サイト上にて一般公開。