爛柯亭仙人の
囲碁掌篇小説集


不思議な話


不思議な話 19

囲碁世界戦の二回戦で中韓の棋士が完全に姿を消した。残るは日本勢のみ。中韓のマスコミは選手の不甲斐なさを一斉に叩き始めた。一方、日本は国を挙げての大騒ぎとなった。だが、日本人は誰も知らなかった。中韓の惨敗は巨大スポンサーの日本を盛り上げるための深謀だということを。

不思議な話 18

たしか実戦対局は初めてだったはずだ。石を打つ手つきもぎこちない。なのにこの強さは…ありえない。不可能だ。天才なのか? 彼は対局相手の顔をじっと見つめた。生涯のライバルになるかもしれない男。君はいったい何者なんだ? 彼は、ヒカルという少年の名を胸に深く刻みこんだ。

不思議な話 17

碁会所に入ると人垣ができていた。何事かと思って割り込むと、二人の美少年が対局していた。私など歯が立たないほど強い。
対局が終わり、
「おまえ強いな」
と勝者が笑った。
「また打ってくれる?」
敗者が力なく呟いた。
「もちろんさ塔矢」
勝者が頷いた。
いやあ、若いって素晴らしい。

不思議な話 16

新年度早々、久しぶりに日本の囲碁棋士が世界棋戦で優勝した。いずれも世界最強との呼び声の高い、中韓の強豪をなぎ倒しての勝利だから快挙といえる。日本の囲碁ファンは溜飲を下げ、碁界は早くもお祭り騒ぎだ。だがこの快挙は今日のニュースになっていない。(4/1ツイッター伝)

不思議な話 15

政治家や経営者の多くが囲碁の効用を認め趣味としている。しかしその効用は科学的に証明されたわけではない。私は膨大なデータを収集分析し、ついにその謎を解明した。おそらく世界中が震撼とするはずだ。だが紙幅も尽きた。残念ながら、とてもツイッターで説明できるものではない。

不思議な話 14

新聞各紙がこぞって「新年度から囲碁将棋欄を見開きにする」と発表した。不景気の影響で広告収入が激減し、制作費や人件費が削減され、紙面の穴埋めにと考え出された苦肉の策だった。4月1日からの実行だがエイプリルフールではない。はたして囲碁将棋の人気は復活するだろうか。

不思議な話 13

最初は私が4目勝って400円貰った。続く2局も連勝し、計900円の収入。いい気分だ。熱くなった相手が「1目200円で」とレートを吊り上げてきた。当然受けて立った。だが、気合いが入りすぎたか、大石を取られて私の53目負け。しまった。やられた。気づくのが遅すぎた。

不思議な話 12

この一局に勝てば1000万円の大勝負。命がけの勝負が見たい、という碁好きの組長に私は代打ちを頼まれた。勝てば二割、負けても二分が報酬。相手は借金の帳消しと命が引き替え。ともに食いつめたプロ崩れだ。結果は私の半目負け。これで相手から50万。明日もなんとか生きられる。

不思議な話 11

毎年クリスマスには囲碁大会を開く。今年は女性の参加が多く、例年にない華やかさだった。毎年カップルが誕生し、結婚率が高いせいか。婚活と囲碁。およそ不釣り合いな感じだが、じつは狙い目なのだ。そんな話をA子にしたら、来年ぜひ参加したいという。これでまた入門者が増えた。

不思議な話 10

波平が伊佐坂先生と碁を打っているとマスオが顔を見せた。
「やってますね。今度教えてくださいよ」
そこへサザエが来て、
「私が教えてあげるわよ」
「できるの?」
「サザエは湯水金蔵さんに勝ったこともあるんだよ」
波平が答えた。
「ま、お父さんたら。オホホホホホ」
サザエが笑った。

不思議な話 9

日本の囲碁界は七団体に分裂した。布石棋院、定石棋院、ヨセ棋院、詰碁棋院、実戦棋院、指導棋院、総合棋院。また、各団体が独自に免状発行できるようになった。このため実戦棋院で五段でも、詰碁棋院では三級ということも起こりうる。碁界の活性化につながるか、行方が注目される。

不思議な話 8

日向産の榧の巨木を前に、男は頭を働かせていた。ここから碁盤が何面とれるのか。うまくすれば厚い柾目や板目が数面と、残りで薄い盤がいくつか。端材は接ぎ盤に使える。しめて数千万円。だが。この不景気で博奕は打てない。
「俺もヤキが回ったな」
男は首を振り、その場を去った。

不思議な話 7

誰でも簡単に19路で囲碁が打てるようになる画期的な入門法が開発された。教わって一時間で終局まで打て、早い人は七日で初段に達する。これはノーベル賞ものだと碁界は騒然となった。だが、この方法で碁を覚えた人は、一ヶ月で30歳も老け込んでしまう。それでもよければの話だ。

不思議な話 6

世界中に囲碁が浸透し、戦争が完全に消滅した。国家間の争い事はすべて盤上で決着をつける。当初は囲碁四強国がリードしたが、各国が教育に力を入れ、すぐに戦国時代となった。一滴も血を流すことなく世界の勢力図が変わる。新時代の到来。碁の弱い政治家は国際舞台に立てないのだ。

不思議な話 5

親孝行で努力家の女の子の枕元にサンタが立っていた。彼女は
「碁が強くなりたいから、いい碁盤と碁石がほしい」
と願っていた。
「これに碁盤は入らん」
サンタは靴下を見て呟いた。
「これで勘弁しておくれ、高いんだから」
サンタは靴下にジャラジャラと本蛤の碁石を入れて立ち去った。

不思議な話 4

囲碁と将棋のプロになった初夢を見た。縁起がいいのか悪いのか。現代の囲碁将棋界において、双方で棋士になった者はいない。これが正夢なら、大きなニュースになるところだ。だが、二兎を追う者は一兎をも得ず。囲碁将棋はあくまで趣味にとどめるべきだろう。連珠の名人なのだから。

不思議な話 3

ついに永遠に続く全局問題が完成した。無限珍瓏。これで私は歴史に名を残すことができる。碁界は私への賛辞を惜しまないはずだ。だが、私は完成という事実のみを公表して、作品を闇に葬ることにした。フェルマーの最終定理のように、向こう何百年も碁好きたちを悩ませることだろう。

不思議な話 2

ツイッター囲碁選手権が創設された。世界のトップ棋士50人が同時対局し、各局1日1手だけ打ち進めるリーグ戦。助言を求めようがコンピュータを駆使しようが、すべて対局者の自由。対局番号をハッシュタグとし、運営側は進行を管理する。1年以内に真の世界一が決定する見込みだ。

不思議な話 1

「殿、これは…」
「どうした?」
「三劫でございまする。お打ち直しするが宜しいかと」
「そうか…いや、ならぬ」
「と言いますと?」
「戦にやり直しはきかぬ。さすれば和局とすべきか?」
「いえ、無勝負にすべきかと…」
このとき、光秀の軍が迫っていることを信長は知る由もなかった。
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