爛柯亭仙人の
囲碁掌篇小説集


指導者たち


指導者たち 10

継続は力なりは囲碁の世界も同じだ。続けることが上達の秘訣であり、好きこそものの上手なれでもある。だが、これが難しい。特に小さな子供の興味を持続させるのは至難の技で、指導者の力量と運が問われる。目の前の幼児は碁を好きになったろうか。来週も来てくれたら嬉しいのだが。

指導者たち 9

その一手を見たとき、囲碁を教えた甲斐があったと嬉しくなった。今まで上手の着手について回るしかなかったのが、私の手を見てしばし考え込み、まったく違うところに打った。手の善悪は問題ではない。自分の頭で考えて打つ。それこそが進歩なのだ。将来が楽しみな小学一年生である。

指導者たち 8

打った瞬間、ポカだと気づいた。先生は一瞬「ん?」という顔をして困ったように頭を掻いた。私に特別に「待った」を許すかどうか、考えているのかもしれない。先生は少考後、まったく違うところに打った。あまりにひどいので放置プレイなのか。反射的な着手をした自分が情けなかった。

指導者たち 7

囲碁教室の子供に詰碁と棋譜並べをやらせた。詰碁は面白いのか取り組む子が多いが、棋譜並べはやらない子もいる。ある日、所在なげにぼうっとしている子がいた。
「なぜ並べない」
と聞くと、
「もう覚えた」
という。どうやら百手では物足りないらしい。出藍の誉れか。講師の責任は重い。

指導者たち 6

囲碁とはどんなゲームなのか。入門者の質問にどう答えるべきか悩んだ。最終的に陣地の大きいほうが勝ちなのだが、本質は陣取りではない。強いていえば石の生存や覇権を争うゲーム。その結果が地となって現れるのだ。
「…うーん、ますますわかりません」
生徒にそう言われて絶句した。

指導者たち 5

その少年は囲碁を覚えてわずか十日で有段の腕前に達した。打った実戦は約百局。抜群の集中力と記憶力。彼は盤上を見ることなく、何手でも先を読むことができた。
「絵のように先が見えるんです」
と彼は言った。どこまで強くなるのか。盲目の天才棋士が誕生する日も近いかもしれない。

指導者たち 4

『ヒカルの碁』で囲碁を始めた小学生から弟子にしてくれと言われた。私にはそんなつもりも技量もない。ダメだと答えると、勝ったら弟子にと懇願された。5子で打って驚いた。大変な才能だ。こんな子は見たことがない。弟子にする代わりに師匠を紹介することにした。最善手だと信じて。

指導者たち 3

「先生、ウッテガエシ!」
と子供が言った。多面打ちの指導碁をしていると、うっかりそんなポカも飛び出す。
「あっ、よく気がついたねえ。取っていいよ」
「ホントに?」
と子供はうれしそうに目を輝かせて、さっと私の石を打ち上げた。童子といえども導師なり。失敗は己の責任である。

指導者たち 2

級位者大会で優勝したご褒美に、入段したての女流プロに指導碁を打ってもらった。八子でいつのまにか碁にされ、結果は持碁。
「こう打っていれば勝ってましたね」
と笑顔で言われても、ヘボにはそうは打てない。夢と知りつつ、それと同じ言葉を、いつかプロに対して言ってみたいものだ。

指導者たち 1

プロの指導碁を受けるのは、これで何回目か。序盤は圧倒的に有利で楽勝気分なのだが、いつのまにか碁にされてしまう。おかしい。私としては、勝負に潔いプロがいつ投げるかと待っているのに、気がつくと悪くなっている。なにか妙だ。敵は詐欺師なのか。絶対に裏があるに違いない。
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