爛柯亭仙人の
囲碁掌篇小説集


ちょっと長〜い
まえがき


 ここに掲載した囲碁掌篇小説は、いずれもTwitter(ツイッター)上で発表した作品である。 ツイッターはご存じのとおり「ミニブログ」とも呼ばれ、日常生活や目の前で生じているさまざまなことを気軽に「つぶやく」(さえずる)というコンセプトで、日本でも爆発的に広がっているサービスである。ツイッターと通常のブログとの大きな違いの一つに、どんなに思いのたけを書き綴りたくても、一回の投稿では上限 140字までしか書けない、というものがある(日本語の場合は全角や半角や記号を混ぜて全部で 140字まで。英語の場合は当然ながら半角英数字と記号等で 140字まで)。

 私こと爛柯亭仙人は、この「140 字しか書けない」という制約の中で、ひょんなことから囲碁小説を書いてみようと思いたち、2009年11月17日から少しずつ作品を発表してきた(現在も創作活動を継続中)。

 そもそもツイッター上で小説を書くという試みは、もとを正せばツイッター発祥の地であるアメリカで始まったという(そりゃそうだ)。日本でも一部のユーザーが実験的に書き始めていたようだが、2009年 7月末にケータイ小説家の内藤みかさんが「ツイッター小説」を書き出し、それをツイッター上で発表したことから急速に広まった。なんでも発表2日後には出版社から内藤さん宛にツイッター小説出版のオファーがあり、結局10名の作家との共著で「Twitter小説集 140字の物語」という単行本にまとめられた。そのあたりの経緯については、内藤みかさんのブログをご覧いただきたい。また、2009年11月には出版社の主催による「Twitter小説大賞」なる懸賞募集も開始され、あちこちのメディアに取り上げられたりもしたから、ご存じの方も多いだろう。内藤さんや懸賞の影響も手伝ってか、日本語によるツイッター小説は数カ月間で累計数万作(2〜3万作?)に達したといわれる。

 ともあれ、 ツイッター小説の字数制限「140字」(厳密には「#twnovel +半角スペース」というハッシュタグをつける必要があったために 131字以内)という厳しい状況の中で、さらにはテーマとして「囲碁」という分野に限定して小説を書き続けるというのは、これはこれでなかなか大変な試みであると勝手ながら思っている。

 日本は長らく囲碁という伝統文化を有し、それを国技的に発展させてきた国である(少なくとも江戸時代に囲碁は「国技」と言ってよいほど厚遇された)。だが、「もと国技」というわりには、どういうわけか囲碁をテーマやモチーフにした小説が少ないうえに(漫画や映画やドラマも同様に少ないが)、日本の囲碁人口も年々減少傾向にある。そんなことから私自身、「ツイッターで囲碁小説を書くなんて、なんと酔狂な試みだろう…こんなもの、いったい誰が読むんだろうか?」と、なかば思いつつ書き進めてきたことも事実である(ま、そうは言っても、結局は自分自身が面白がって楽しみながら書いているわけだから、べつにいいんですけどね…)。

 というわけで、残念ながら囲碁はことほどさようにマイナーな存在というわけだが、世界一面白いゲームと言われる囲碁をもっと世間の人々に知ってもらいたい、もっともっと普及したい、という私なりの(碁好きにありがちな)情熱と、おそらくは史上初の試みであろう「ツイッターで囲碁小説を書く」という奇妙なモチベーションとが合わさって、熱しやすく冷めやすくなおかつ飽きやすい性格の私を、着実に一歩ずつ前進させてくれたことだけは間違いない。

 いや、この「たかが 140字」(されど140字 )という、短いようで長く、長いようでやっぱり短い微妙な制約が、じつのところ私には合っていたのかもしれない。実際、投稿条件に字数制限がなかったら、推敲ばかり繰り返していつまでたっても進まなかっただろうことは、経験上はっきりと断言できる(そんなことを自慢げに断言してどうする、という気もしますが…)。

 ともあれ、本サイト掲載の作品に対して「囲碁小説」と銘打ってはいるものの、なかには「小説」というよりは「エッセイ」のようなものもあるし、私の近しい碁仲間の紹介やら囲碁格言の説明にかぎりなく近い散文的な作品(それでもいちおうフィクションです)もあったりする。また、言葉遊びの「回文」もあり、厳密な意味では作品のすべてを「小説」と呼ぶことはできないであろうことは重々承知している(将棋の回文も2作混じっているが、まあそのへんはご愛嬌ということでお許しを)。

 実際、「#twnovel」というハッシュタグをもった「ツイッター小説」というのは、内藤みかさんの定義によれば、原則的には「オチのあるショートショート」でなければならないみたいなので、そういう意味では私の作品の多くは失格かもしれない。
(注)「#twnovel」では定義できない文学作品を、 「#twbngk」(ツイッター文学)というハッシュタグで定義しようと呼びかけている方もいる。また、英語圏ではきっちり140字でショートショートを書く「140story」というものがあり、それらの作品は「→こちら」で読むことができる。もちろん英語だけど…。

 ツイッター上における「ツイッター小説(ついのべ)」の定義の問題はこの際さておき、本作品集の「碁石の音が…」に収録したショートショートはもちろん、推理小説、歴史小説、怪奇小説、幻想小説、SF小説や恋愛小説といった多様なジャンルのいわゆる「小説」作品を、なんとか 140字以内で書いてみようと、私なりにチャレンジしてきたつもりである。

 と同時に、たとえ事実や現実を下敷きにしていたとしても、ツイッター上で発表した作品のすべてが、私というフィルターを通して語られた紛れもない「創作」であることだけは明記しておきたい。そういう意味では、たぶんに私小説的な作品が混じっているとも言えるだろう。もちろん、それぞれの作品が内容的に成功しているかどうか、小説ジャンル的に成立しているかどうかについては、これはもう賢明なる読者諸兄のご判断に委ねるよりない。
(注)拙作「碁石の音が…」の作品群は、SF作家・星新一さんの「ノックの音が」へのオマージュである。

 なお、あらかじめお断りしておくが、ここに掲載している作品には、囲碁というゲームをまったく知らない人が読んでも内容的に理解できる小説もあれば、囲碁を知っていたほうが作品の意味をよりよく理解できるもの、また、少なくとも囲碁の上級から有段くらいの腕前や知識がないと、何を言っているのかさっぱりわからないであろう内容のものなどが混在している。

 囲碁普及的な観点から見れば、誰が読んでも理解できる作品のほうがいいのだろうが、140 字という制約のなかでは、なかなかそういうわけにもいかない。特殊な囲碁用語にいちいち注釈をつけることは実質上不可能だし、それらの用語類を作品の中でざっと説明することすら容易ではない。また、発表当初の目標として掲げた 200篇を達成するためにも、初心者から有段者まで幅広い読者を対象とした内容のほうが書きやすい、という作者側の事情もあった。なにより、囲碁とはそのくらい多様性のある世界を内包しているのだ、ということも知っていただきたかった。なにやら言い訳めいて恐縮だが、意味不明の作品があったとしたら、読者諸兄のご寛恕を願う次第である。

 当サイトの作品を読んで、「なんだか面白そうだから、ちょいと囲碁でもやってみようかなあ」と思っていただけたら、これはもう望外の喜びである。囲碁はホントに面白いので、ぜひやってみてください。もしあなたが囲碁初心者で当サイトの小説を読み、意味がよくわかならい作品があったとして、何カ月か何年か後に同じ作品を読んで意味が理解できたとしたら、それはあなたの囲碁の技術や知識が向上したことの何よりの証明である。大いに誇りに感じていいでしょう。


 つまらぬ御託はこのくらいにして、世界一面白いゲームである「囲碁」に関する掌篇(極超短編)をまずはお読みいただき、どれか1篇でも気に入った作品や「なるほどなあ」と思える作品、「まずまず楽しめたよ」とか「いい暇つぶしになったよ」と思える作品に出会っていただけたら、作者としてこれほど嬉しいことはない(ご意見ご感想などありましたら「掲示板」にぜひどうぞ。返事が遅れるかもしれませんが、あらかじめご容赦ください)。

2010.2.20記
爛柯亭仙人
(thx15 on Twitter)
まとめサイト:twilog

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