爛柯亭仙人の
囲碁掌篇小説集


男と女


男と女 9

恋した相手は囲碁の強い女の子だった。デートなのに碁会所で碁を打ち、詰碁の問題を出された。答えがわかるまで手も握らせてもらえなかった。これは恋愛なのか苦行なのか。ときどき簡単な問題が出た。彼女も手を握りたかったのか。僕の場合、恋はレモンの味ではなく囲碁の味がした。

男と女 8

目の前の女性はふっくらとした美人で、およそ争い事とは無縁の顔をしていた。だが、人は見かけによらないもので、私の大石に狙いを定め、ガンガン攻めてくる。じつは終わったら一杯誘おうかと思っていたのだが考え直した。酒の席でも攻め立てられたりしたら、辛すぎるじゃないか。

男と女 7

碁に負けたほうが彼女を諦める、そういう約束だった。女を賭碁の賞品にするのはさすがに気が引けたが、ヤツの申し出だ、逃げることはできない。負けたら二人の仲を取り持ち、全面支援する。男の側の身勝手な論理。結果は僕の負け。ヤツは僕が彼女と付き合っていたことを知らない。

男と女 6

結婚相手を見つけるために囲碁を習う。そんな若い女性が急増している。碁の打てる男は高学歴・高収入の可能性が高いからだ。しかし問題は、碁の打てる男性がそう多くはない点だ。そのため囲碁の世界でも、女性は相手探しに苦労を強いられる。男性諸君、モテたければ碁を習いたまえ。

男と女 5

囲碁は老人の娯楽と思われがちだが本当はそうじゃない。老若男女で楽しめるゲームなんだ。そう力説すると、
「じゃあなぜ流行らないの?」
と彼女。
「僕からすれば世界七不思議の一つだね」
とは言ったものの、彼女はまだ碁を知らない。教えたら好きになってくれるかな。自信は…ゼロ。

男と女 4

「勝手読みはいけない」
と囲碁ではよく戒められる。勝手読みして手を打つと思わぬ反撃をくらい、形勢を損ねるからだ。だが、たいていの人間は自分に都合のよい勝手読みばかりして生きている。だから碁を習うといい。そう言うと、妻から
「あなたに碁は役立ってないわね」
と返された。

男と女 3

「私にも囲碁を教えて」
と彼女が言った。
「そうすればあなたのことがもっと理解できるようになると思うから」
「いいよ」
と僕は答えた。
「だけど僕のことがもっとわからなくなる可能性について考えたことはあるかい? 対局すればわかるよ」


男と女 2

「その手はダメ」
彼女が言った。
「こう打つと?」
「あ、取られちゃう」
と僕。
「そう。だから悪い手なの。わかる?」
「うん」
たかが碁なのに頭が悪いと言われているようで惨めな気分だ。彼女にはわからないだろうが…。
「なんか言った?」
やれやれ。買ってきた指輪、どうしようかな。

男と女 1

「あなたっていつも囲碁のことばかり考えてるの?」
「たいていは」
「あたしといるときも?」
「え、それは…」
「何が面白いのか理解できない」
「教えようか?」
「教えてくれるの?」
「うん…いや、ダメだ」
「どうして?」
「だって僕のことより碁に夢中になったら寂しいから」
「バカ」

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